今回は、世間でよく言う「コンカレント開発」について触れてみます。

 俗に言うコンカレント開発とは、「製品設計と製造、販売などの統合化、同時進行化を行うための方法」を指しますが、何十年も前から多くの企業で叫ばれていたと思います。

 私もかつてどっぷりそれに浸っておりましたが、その経験からいくと、どちらかというと開発目線として、如何に開発上流工程から下流部門の参画を促し、要望、意見を入れ、開発の後戻りがないようにするというものだったかと思います。
ですので、デザインレビューも頻繁に行い、仕様を全員が理解しながら進め、試作評価といったステップも多めにとっていました。

 ただ、下流部門、特に製造部門にとっては、開発の初期段階から参画するため、現物というより設計仕様書、回路図、3Dデータなどのドキュメントをみながら評価、提案する機会が多く、製造部門の特性からいくと現物を目の前にしないと気づきが出にくいといった課題も有していたと記憶しています。

 それでも、開発の上流工程に対しては他部門からの意見が何かしら出てくるので、開発部門は設計を見直したり修正したり結構大変です。また、デザインレビュー自身の準備をすること自体も結構工数のかかるものでした。
しかし、早期に全員の意見を反映していることで、確かに後戻り工程は少なくなったという覚えはあるのですが、最終的に問題の発生もなく、計画通りの日程で終了したかというと、やはり最後になって気づかなかった課題がどんどん出てくる、結局はいつもと同じように最後のばたばたがあって製品が完成することが多かったような…。

 それは、デザインレビューでの視線の深さが足らなかったといえばそうでしょうが、まだ現物化していない段階での評価、意見は抽象的なことも多く、今になってみると早すぎるデザインレビューにそこまで効果があったのだろうかという疑問もわきます。

 コンカレント開発の意義は、後戻り工程をなくし全体日程を縮めることにあります。

 新製品でも既成製品のシリーズものであれば新たな課題が出てくることは少ないでしょうが、全くの新分野での新製品では、想定外の出来事が生まれるのは必定です。デザインレビューをし尽くしても気づかない課題が必ず出ますし、現物が量産に近い形にあり、実際に動き始めて多くの評価、課題が生まれます。
そして、結局は納期遅延になることが多かったようにも記憶しています。

 現在、製造部門という下流工程に身を置いている立場で考えた場合、逆に下流からみたコンカレントな取組みは出来ないのだろうかと考えたりします。

 実は、現在、当社で進めている新製品がまさに新分野の製品です。製品といってもラインナップが多数あり、どの段階が完成とは呼びにくい商品群です。開発部門とのデザインレビューを多々ありますが、開発もメカ、ハード、ソフト、アプリ、そして量産をするための検査ソフトや生産技術と関わる分野も多く、それぞれ進捗度も異なります。どれかは100点までいっているが、別のところはまだ50点というところもあります。
ISOで定義されるような開発移行管理では、製品開発が完全に完了し、それぞれの評価結果が並べられ、量産に移行するためのばらつき評価も終了、目の前に多くの検証データと共に立派に表紙から整備されたドキュメントがあり、はじめて工場引継という風になりがちですが、正直、このスタイルを貫けばいつまで経っても量産は出来ません。

 よくよく考えると、開発完成度の凸凹を認め、そしてそれを見極めて正しく変更リスクを理解していけば、部分的な引継、即ち生産に取り掛かれることが可能なはずです。
実際、我々はその形態をとっており、全体は不完全でも個別では完全という視点で完成度を判断し、部分生産を開始しています。もちろん、生産順序をある程度無視して部分的に生産していくわけですから、相当な管理が必要です。

 しかし、コスト勝負では負けてしまうアジア勢に対して、日本ならではのモノづくりの強みを出そうとすると、この煩雑さを受入れ、こなしていけなければいけません。間違いのない管理をするためにこそ、得意の整理に特化したIT化が求められますが、それもシンプルかつフレキシブルなものが必要です。
それこそ当社というか日本モノづくりの強みかとも思います。

 製造側からみたコンカレント開発、いや「コンカレント製造」と言ってもよいかもしれませんが、開発進捗度や完成度を見極める力が必要でしょうか。間違えば、それこそ自分たちの後戻り工程が発生しますし、コスト負担も強いられます。

 時々思うのですが、デザインレビューとは、互いに弱みを見つける場ではなく自ら披露する場面ではないかと。
開発側からは、設計に自信のあるところ、ないところを忌憚なく伝え、製造側からは、ばらつきなく作れるところとそうでないところを伝えあい、両者の自信が一致したところはすかさずモノづくりに入る、そういった進め方もありではないかと思います。
ISO的にはイレギュラーなことをしているかもしれませんが、それは部分製造着手の判断ルールを決めておけばよいだけの話なので、一般にある開発移行ステップで自分たちの首を絞められることはないかと思われます。

 まだ、こういうやり方を始めたばかりで最後に笑っていれるかどうか分かりませんが、こういう下流からみたコンカレント開発もあるのではと思うこの頃です。

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