前回の第6回では、≧6vというちょっとIoTには特殊な条件で使用するお奨めLDOを紹介しました。
これは、青色LEDを使う為にリチウムコイン電池を2本(6.0v)使う場合、2直のリチウムイオン電池(充電8.4v想定)のケースでした。

より現実的で実用性があるのは、6.0v未満の電源条件だと思います。
青色LED点灯問題の解は、次回になります。

ボタン電池1個の電圧:3.0v➡使用電圧範囲:2.5~3.0v
乾電池2個の電圧:3.0v➡使用電圧範囲:1.8~3.0v ※乾電池は0.9v/単セルまでであればBluetoothLEは使用可能です。
リチウムイオン2次電池1個の電圧:3.7➡使用電圧範囲:3.3~4.3v➡充電時には4.2~4.3vで充電されます。
USB電源:5.0±0.25v➡使用電圧範囲:5.0±0.25v(安定化出力ですから)

ここら辺を対象にしますので、安定化電源に使用するLDOの耐圧は、5.5v~6.0v付近でOKです。
「USB電源の最大値:5.25vに対してVin(max):5.5vのLDOはマージンが足りないのでは?」と感じる人も居るでしょう。
しかし、基本USBのLDOにはコレで充分です。USB5vは出力側に安定化電源がありますので。
※但し❗USB-ACアダプタの中華製で品質の悪いものも有りますので、必ず検証して下さい。5.5vを越えるモノが沢山有ります。
 USBーACアダプタの品質で注意するのは、無負荷時出力電圧です。負荷側(製品側)を繋がず、テスターで計った電圧です。
 無負荷時に5.7vなのに、負荷があると5.0v±0.25vには成ってるACアダプタが結構あります。設計不要品です。製造不良では無いです。
 負荷側(製品側)を繋いだその瞬間が5.5vを越えて壊れる事があるのです。要注意です。
 アキバの有名店で売られているACアダプタでも、そう言うのが普通にあります。〔無負荷時出力電圧〕を必ずチェック❗です。

<6.0v電源用_超オススメLDO:S-1741
今回ご紹介したいのは、エイブリック株式会社のS-1741です。
これは凄いLDOなので、是非皆さんにご紹介したいです。
https://www.ablic.com/jp/doc/datasheet/voltage_regulator/S1740_1741_J.pdf
Quadcept Project File➡
https://drive.google.com/file/d/1NtCV41E3zQ972OETIkP1dZPixCM9wyQI/view?usp=share_link
【特徴】
Iout:100mA
Vin(max):5.5v
Iq=Iss:0.35uA ➡オススメポイント❗
Vdef≧0.02v(=20mV)/10mA
過電流保護回路内蔵
PowerMonitor機能付 ➡超オススメポイント❗
Vout設定:固定
〔解説〕
本LDOの最大の特徴は、
①超低消費電流LDO
②Power Monitor 機能付
の2点です。

①超低消費電流LDO
Bluetooth Low Energyのスタンバイ電流が1uA以下という時代に、その電源の消費電流が30uAとかあり得ません。
この改題解決で開発されたのが、低消費電流LDOでIq(Iss)=1uA~3uAのモノでした。
しかし、無線モジュールが1uAですので、まだ消費電流のバランスが悪いですよね。
このS-1741Aの消費電流は、なんと0.35uA(typ)です。圧倒的な低消費電流LDOです。
Bluetoothモジュールが1uA以下で、その電源LDOの消費電流が0.35uA(typ)だと納得感がありますね。
この様な最新の低消費電流LDOを使わないと、製品動作寿命を最大限に出来ません。
また、Bluetoothモジュールをスタンバイではなく、停止(DeepSleepでも)していても、LDOの消費電流は無くなりません。
リチウムコイン電池のCR2032でBluetooth LEで1年以上の電池寿命(想定<1uA)が一般的です。
しかし、LDOの消費電流が30uAや10uAや5uAや1uAですと、Bluetooth LEモジュールを止めても電池を消費し続けますので。
最近のIoT機器を設計するのであれば、この位のIq(Iss)のLDOを使わないと全くダメだという事です。

②Power Monitor 機能付❗❗
「こりゃ一体何だ?」と思われる人が多いと思います。
実は、このアイディアは私がABLIC社に提案して開発された機能です。なかなか説得に応じてくれなかったのですが、実現してくれました。
他社にはこの機能はありません。
※その後、RICOHも説得に応じて採用してくれています(DCDCコンバータの際に紹介します)。
これは凄い機能ですので、解説します。

〔Power Monitor機能の解説〕 ※日清紡マイクロデバイス(旧RICOH)では〔BM(Battery Monitor)〕と呼びます。
大元(おおもと)の電池電源のモニタリングというのは必須ですよね。
一体今、電池の電圧は何ボルトなのか?の計測。 これはIoT機器では必ず必要になります。
電池電圧が下がっていき、Battery Low(バッテリー・ロー)アラートで電池交換を誘導する事が必須です。
「これを解決するのは簡単だ!」と思っている電気エンジニアがとても多いんです。
しかし、簡単では無いのです。先ずはその解説から。

簡単だ!と言ってるエンジニアの回路イメージはこんな感じの筈です。
たしかに簡単な様に見えます。
実際この回路を使っておられる回路図も見たことが何度も有ります。

R1/R2でVbattを分圧して、マイコン(MCU)のADC入力に入れて読む。
こんな感じでしょう。
でも、この回路ではR1とR2に10k/10kとかを選択したら、
Imon(uA)=3.0(V)×20k(Ω)=60(uA)
となります。
Bluetoothモジュールのスタンバイ電流が≦1uA
LDOの消費電流(Iq=Iss):0.35uA/S-1741A使用時
で低消費電流化してるのに、R1/R2で電圧モニターする回路だけで60uAとか本末転倒ですよね。

すると、「M(メガ)Ω抵抗にすれば良いじゃ無いか!」と実際言ったエンジニアも結構居ますw

では実際やってみましょうw それが下図。

この時に抜けている理論があります。
R1/R2をM(メガ)Ωにしたらどうなっているのか?の回路が上図。

そして、大事なのがマイコンのADC入力インピーダンス(Zi)です。
マイコンのADCの入力インピーダンス(Zi)は概ね10~12kΩ程度なのです。

関係ある部分のみを描き出したのが下の図。
どこが問題なのか分かりますか?

マイコンのZi(入力インピーダンス)を考慮してない人のイメージでは、抵抗分圧の電流を下げたいので、1.5MΩにしてます。
これだと、Imon(uA)=1uAでまあまあ。中にはもっと減らしたくて5.6M(Ω)x2とかにしてる回路も見た事あります。
そして、分圧された電圧値の脳内計算式はこんな感じなんでしょう。
Vadc=Vbatt×1/2
➡よって、Vbatt=3.0vの際には、Vadc(Vmon)=1.5vって事なんでしょう。

しかし、マイコンのZi(入力イピーダンス)が10kΩ程度なので、実際の分圧回路としては、
R1(1.5MΩ)とR3(10kΩ)との分圧で決まってしまってます。R2(1.5MΩ)には殆ど電流が流れません。
これは中学理科での抵抗分圧の知識で考えれば、キッチリ計算も出来ますが、現実はだいたい。。。

Vadc(Vmon)≒10k(Ω)/1510k(Ω)×3.0v=0.19v≠イメージの1.5v

ですので、ADCでの読み取り電圧は0.19vに成っちゃいますって事です。

実際にはADCのZiはカチッと決まってませんので、この限りでは有りませんが、少なくともM(Ω)ではないのです。
よって、「テスターの読み取り値と違うな~」とソフトエンジニアが混乱しますw
 

Vbattを単純に抵抗分圧しただけでは、抵抗分割回路の消費電流の問題があり、それを下げようと高抵抗を使うと、ADCで正確に読み取れない。
と成ってしまいます。
そこでABLIC社や旧RICOH社に提案して開発してもらった回路が以下です。S-1741Aの仕様書から抜粋します。

よく出来てると思いませんか?
電池電源のVbattを、安定化電源IC(LDOやDCDCコンバーター)を通すとシステム全体が安定化されます。
電池の電圧を観測できているのは安定化電源ICだけに成ってしまいます。
となると、《電源IC自体にPowerMonitor機能を付ければ良い》というアイディアなんです。
これ良いアイディアですよね~我ながらw

抵抗(10kΩ程度の)分圧回路を使い、そのGND側にFETスイッチ回路を追加して、測定するときだけ60uAを良しとしている回路も散見されます。
しかし、電源ICにこの機能を付けておけば値段も変わらないし、超お得だと思いませんか?

原理は簡単です。
S-1741Aに内蔵済みの高抵抗で内部分圧し、超Highインピーダンスの内部OPAMPへ入力し、ボルテージフォロワーで低インピーダンス出力をします。
また、このPowerMonitor機能はON/OFFするように専用のCE(チップ・イネーブル)も装備済みです。
マイコンのGPIO制御でPowerMonitorをONし、PMoutの電圧をマイコンのADCで読み取ります。

わざわざ外付け回路を追加せずとも、電源ICの中に残って居る使われていないトランジスタを使いますから価格の影響は軽微です。
そうやって実現されたICです。

このPower Monitorで測定するときにのみ回路がONに成るのですが、それをPMENで制御します。
私はコレ要らないって思うんですがねw
というのもこのPM機能の消費電流を確認すると、たったの+0.15uAですよ。
私はPMENは常時ONにして使って居ます。どうしてもこの〔+0.15uA〕が気になる方はマイコンのGPIOで制御して下さい。

現在では、ABLIC社と日清紡マイクロデバイス(旧RICOHチーム)が採用してくれています。
こんな素晴らしい電源ICですので、是非皆さんにも超オススメです。
是非、御検討ください。

技術屋オヤジのよもやまばなし(四方山話)

このICのアイディアを閃いたのが、だいたい11年程前の話です。
その頃は、弊社も殆ど知られて居らずヒッソリと開発をやっていた頃です。
一応、ICメーカーは結構来社されていました。

このICのアイディアを最初に提案したのは、仲の良い旧RICOHの開発エンジニア達と代理店FAE達でした。
「面白いですね~!」とは言うものの、何年経ってもこのアイディアを採用する話は出ませんでした。

「こいつら本気でやる気あるんか?」と思い続けて数年経ちました。
我慢出来ずに新に採用したABLIC社(旧SEIKOインスツルメンツ)へアイディアを提案したら、本気で採用すると。
結局、アイディアを先に出した旧RICOHよりも先にABLIC社が採用し、本S-1741が完成しました。
それからは、LDOは全てS-1741に変更です。全機種を変更w 必要だから。

面白い話は、これを実際に量産化する前にABLIC社の法務部門からチャチャが入ったんです。
・本ICのアイディアの請求権を放棄する事
・特許申請しない事
・特許権を主張しない事
・etc etc笑

私は、必要だからアイディア出しているだけで、「特許も申請しないから自由に使って良いよ」と始めに言ってるんですw

でも、会社とはこんなもんですw

結局、アイディア出した私自身がそれら複数の書類に署名する事となりましたwww
私はそんなケチな男では無いですよw

で、この新製品発表は当然RICOHにも届く事となり、慌ててRICOHも採用する事となりました。
サッサとやっておけば良かったのにね~w

こんな経緯があってできた素晴らしい電源ICですので、皆さんも是非使って下さい。
私の懐には1円も1銭も入ってきませんので、ご安心をw

日清紡マイクロデバイス(旧RICOH)では、主にDCDCコンバータの方に採用されています。
これは、次回紹介する事になります。

 

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