《Bluetooth Low Energyの飛び》に関して、各Webサイトで色々と書かれています。
巷の話では、
「LowEnergyなのでBTCと違って5m程度」とか「概ね、5~10m程度」とか「~50m程度」とか様々です。
答えは、
①BLEの通信距離は「200~250m」、 ※1Mbpsモード時
②BLE-LongRange仕様では「1.1km程度」です。 ※但し、親機/子機共にLongRange仕様の場合
これが正解です。 スマホとBLE機器が通信する場合には、①と同じになります。スマホはLongRangeに対応してない為です。
結構、驚かれた人も多いかと思いますが、これが真実です。
①標準仕様の場合では、送信パワー(TxPower)が”+4dBm最大”で、データレートが1Mbps/2Mbps
②LongRangeの場合は、送信パワー(TxPower)が、”+8dBm最大”、データレートが125kbps/500kbps
無線の世界では当然、送信パワーが大きい方がより遠く飛びます。
それに合わせて、データレートが飛びに影響します。データレートが低くなると、「受信感度が良くなる」からです。
TxPowerは数字が大きい方が、送信電力が大きい。より飛ぶ。
RxSensitivityは数字が小さい方が、受信感度が良い。=より少ない無線電波を取れる!より飛ぶ。マイナス値。
※例えば、TxPower::+4dBmを出力しても、遠くに行く程その電力は落ちますよね。
ずっとずっと遠くに行くと、その+4dBm出していた送信電力ももの凄く落ちます。どの位まで落ちたレベルでも
受信できるのか?というのが受信感度です。だから、在る地点で-80dBm迄下がっていたとするとソコまで遠いと
「+4dBmで送信しても、ここでは84dBも下がっている(元が+4dBmなので)!」という感じです。
そして、「その在る地点の-80dBm迄しか受信できない」=「受信感度は-80dBmだ!」と表現します。
更に遠くの「-90dBmに落ちても受信できる」=「受信感度は-90dBmだ!」となるわけです。
大体分かりました?
実際にnRF52840のデータシートから、同一条件で受信感度データを抜き出しますと
《受信感度:Rx Sensitivity》
2Mbps:-89dBm
1Mbps:-93dBm
500kbp:-99dBm
125kbps:-103dBm
受信感度というのは、どの位小さな無線の電波を受信できるかという指標です。
ですから、小さい(少ない)・低いほうが、よりGreatという事になります。
では、飛びとはどの様に決まっているかというと、《リンクバジェット》という概念があります。これは製品企画の方は覚えておいた方が良いです。
TxPower(送信電力)とRxSensitivity(受信感度)との『差』を足し算して合算した指標で比較します。
例えば、各《リンクバジェット=『差』》を計算してみますと、
(1)TxPower(+/-0dBm) +データレート:2MbpsモードでのRxSensitivity(-89dBm)⇒『差』89dB
(2)TxPower(+4dBm) +データレート:1MbpsモードでのRxSensitivity(-93dBm)⇒『差』97dB
(3)TxPower(+8dBm) +データレート:125kbpsモードでのRxSensitivity(-103dBm)⇒『差』111dB
dBやdBmという単位は面倒クサイのでw そのままの数字と思って頂いて良いですw
そして、《リンクバジェット》が6dB大きいと「通信距離は2倍飛ぶ」という粗認識で良いと思います。
厳密には違いますが、この位の認識でまぁまぁ外れてないと思って良いです。
すると、
(1)⇒(2)で、《リンクバジェット》は8dB違いますので、 「6dB+2dB≒2xチョット倍w強飛ぶ」
(2)⇒(3)で、《リンクバジェット》は14dB違いますので、「6dB+6dB+2dB≒2x2xチョットw倍飛ぶ」
という事になります。理論値ですが大体こんな感じと思って下さい。
(2)で250m程度の飛びとすると、(3)で1.1km飛ぶので2x2xチョット倍wになってますね。
大体計算通りですw
概ねこんな感じで、相対評価(判断)は可能なのです。如何です? あまりこんな記述は無いと思います。
ただし、飛びの評価というのは非常に難しく、周辺環境の影響で変わりますので、一波的な基準があります。
『送信側を高さ1mに固定、受信側も高さ1mに固定。地面は平地(ひらち)で、障害物無し。妨害電波無し』
で相対比較するのが一般的です。特に高さは要注意です。平地1m高が基準です。
オフィス内での試験はダメです。
理由は障害物も多く、スチール机や棚といった障害物もあります。また、同じ2.4GHz帯ではWi-Fiが飛び回ってますので、妨害電波になります。
飛びの試験には必ず、条件を一定にする必要があります。人も障害物になりますからオフィスではダメですね。
必ず、上記条件で『先ず計る』で、相対評価が出来るわけです。絶対評価は出来ません。
相対評価とは、
「前と比べて」や「対象製品(対抗ライバル製品)と比べて」や「リファレンス機と比べて」という事です。
「何m!?」というのは絶対評価になり、それは正確に条件を合わせて測定できないのでダメです。必ず『相対評価』を行って下さい。
ここで、「リファレンス機」なんか無いという人が殆どだと思います。
Braveridgeでは近く、この「飛びのリファレンス機」を販売開始予定ですので暫くお待ちください。
無線屋さん内では「飛び基準セット」と言ったりもします。 相対評価の為のリファレンス機という位置づけです。
なぜ、高さ1mなのかというと、電波は全方向に飛びますが、地面の反射によって電波が相殺されて弱まるんです。
それを勘案しての、1つの基準なのです。ですから高さ1mというのは本来の直接の直線の電波よりも電力が落ちている事に成ります。
それでも条件を一定にする為に1mとしているのです。
そして、まず、条件を合わせた飛びの試験をし、相対評価を行った後で、実環境(オフィス内等)で、再度比較をします。
これが正しいやり方になります。
なお、上記(3)は1.1km(高さ1m条件)と書いてますが、海岸線沿いの通信や山頂と麓間通信になると、地面からの反射波による減衰がなくなりますので、そんな場合にはBLEでも3~3.5km位は飛びます。
海の波は揺らいでますから反射が乱反射しますし、山頂と麓間では、反射波が凄く減ります。面白いでしょ~w
と言うことは、(2)で200~250mと言っても、海上や山の通信ではもっと飛びますよ。
※山の場合は、木や葉っぱの影響もありますから、それを考慮しないとダメですけどね。
これがBLEの通信距離(飛び)の本来の実力なのです。
如何でしょうか? これが本当のBLEなのです。
では、何故
「何故、巷では5m~50m!」と成っているのか?
「何故、私の手元のBLEデバイスは飛ばない!」のか?
「何故、設計会社に作ってもらったBLEデバイスは、実際にはそんなに飛ばない!」のか?
という疑問に答えて行きます。
これはとても面白いですよw
《BLEデバイスが飛ばない原因》には2つの原因があります。
1.アンテナ内蔵のBLE(RF)モジュールを使用している
2.アンテナの知識が無いRFエンジニアが設計している
この2点に集約されます。
ちょっとビックリされている方が多いと思いますが、これが事実であり真実なのですw
では先ず、皆が大好き『アンテナ内蔵のBLE(RF)モジュール』を使用すると「飛ばない」理由と、アンテナの知識が無いRFエンジニアが設計している問題とを解説します。
結論から言いますと、
最も重要なのはANT(アンテナ)なのです。 そして、ANTは必ず基板や周辺の金属やプラスティックの影響をモロに受けます。
その『アンテナ付きモジュール』も、モジュール単体やメーカーの評価ボード上では「ビシッ」とANT(アンテナ)として機能しています。
BLEが使用する帯域は2.4G~2.483GHzとなります。そこにビシッと合わせてあります。
※2.4GHz帯の幅は83MHzしか在りません。そして、帯域内の真ん中は、大体2.441GHz当りですね。
設計上は何処かの周波数がピークになる様に設計されています。大体2.47GHz辺りの高めに設定されることが多いです。
アンテナの合い方は「山型」となり、ピークで最適なんですが、左右はなだらかにアンテナとしての最適度合(具合)は落ちていきます。
所が、モジュールを載せる基板(設計会社が作るメイン基板)に載せた時点で、既にこのピーク点がグッと下がります。
メーカーが設定していた周波数(f0と言います)よりも、より低い方にズレます。
次に、作った基板を筐体(プラスティックケース)に入れると、また更にf0は低い方にズレます。
モジュールで設定されていたf0から2段階で下がっていくという事です。
『アンテナ付きモジュール』メーカーは2.47GHz辺りに合わせている理由は、この2段階のズレを予測して「大体この位のf0にしておけば、中心の2.441GHz付近に来るだろう」という汎用的な判断をしてあります。
経験則では、「全ての外的影響で、0.03~0.05GHz(30MHz~50MHz)位は概ね下がるよね」というものに基づきます。
だから、「2.47GHz辺りにモジュールのアンテナのピーク点を合わせておけば、2.42~2.44GHzに来るでしょう~!」というのがアンテナ付きモジュールを販売しているメーカーの粗判断なのです。コレはコレで間違っては無いんですよ。大体、良い線行ってる設計ですw
所が、このズレ方は様々で、基板の設計や、筐体(プラスティクケース)の影響の具合によっても影響が変わります。
筐体(プラスティックケース)のネジでもモロに影響しますし、プラスティックとの距離も影響します。また離しておけば良いという単純な話でもないのです。
私はそこら辺は知っていますので、アンテナの近くに金属ネジは配置させませんが、これまでに「単純にプラスティクの影響だけで0.25MHz下がってしまった」現象を経験しています。
これは、アンテナのピークが2.2GHz位まで下がってしまってますので、最も周波数の低い2.400GHzでもアンテナとしては機能せず、ましてや最も周波数の高い2.483GHz付近では『山型の右裾』に当たりますから全然アンテナとしては機能してないのです。
更に突っ込みますと、BLEは外的影響を受けやすいとも言えます。
BLE規格特有というわけではなく、皆さんご存知の通り「BLEはボタン電池仕様が多く、且つ『超小型品』が多い」ですよね。
これは、アンテナ的に言うと、「0.03GHz~0.05GHz(30MHz~50MHz)では収まり切れないほど、アンテナのf0がより下がってしまう傾向がある」という結末なのです。
ボタン電池もアンテナの近くにあります。
筐体(プラスティック)もそれに合わせて小さいですからプラスティックの影響を受けやすいです。
諸々、BLEデバイスでは、アンテナが外的要因を受けやすいという事なのです。そう言う意味で、BLEはアンテナの影響を受けにくくするのが難しいのです。
ここまで説明しますと、大体皆さんも理解できたと思います。
「アンテナ付きモジュールは、f0が固定され製造されている。しかし、そのモジュールを使うと、アンテナのf0がグッと下がって全くアンテナがアンテナとして機能しなくなる。つまり飛ばなくなる」
という事なんです。
一応、アンテナマッチングを変えれば、ビシッと再調整する事は出来ます。
ただし、『アンテナ付きモジュール』メーカーはそれをやれません。
部品として販売済みですし、既に客先で実装済みのモジュールのマッチングを変更する事など出来ないんです。
そもそも、アンテナマッチングの部品は1005サイズや、0603サイズですから、人の手で交換など出来ませんよねw
また、ユーザー顧客側で修正するとどうなるか? バッチリ再調整したら?
これ「電波法違反」になりますから、完全に法律違反と成ってしまうのです! これはアウトですね。
結果、「『アンテナ付きモジュール』を使うと、飛ばない!」という結論に至るのです。
これが、『巷の話』の原因なのです。 そりゃ~飛びませんってw
だから、Braveridgeのモジュールは全て『アンテナ無しモジュール』なのです。
そして、メイン基板上で毎回アンテナのマッチングを最適化しています。そう言うサービス(有料)もしています。
「それは電波法違反じゃないのか?」という疑問もあると思います。
正式に、総務省及びUL Japanに確認済みで、「全く問題無し!」とのお墨付きで御座いますw
ち・な・み・に!ですがw
弊社の『アンテナ無しモジュール』を基板に載せて飛びを試験してみたんですが、5m位は飛びますw
これはどう言う事を言いたいかというと
「5m程度しか飛ばないBLEデバイスは、アンテナ付けてないのと同じ」と言うことなんですw
如何ですか? これが真実なんです。
また、『アンテナ付きモジュール』を使ってしまうのは「アンテナの知識が無いRFエンジニア」による決断なのですよね。
残念ですけど、現実はこうなんですよね。
中には、「ウチの企画は5m飛べば良いから、アンテナ付きモジュールで構わない!」と言われる方に結構お会いします。
しかし、「5m飛ぶかもしれませんが、放射パターンがグチャグチャになってるので、パフォーマンスは安定しませんよ。個体差も大きくなります。正しい設計は『アンテナをビシッとマッチング』し、5m程度に成るまで送信Powerを押さえれば、消費電力も大幅にさがり電池寿命も長持ちします」と言うことです。
余談ですが、世の中では「無線エンジニア」とか「RFエンジニア」とか言う職種・エンジニアタイプを聞いたことがあると思います。
実は、本物のソッチ系の界隈では、「アンテナエンジニア」と「RF(無線)エンジニア」は別業種なのです。
どの位違うかというと、「中華料理」と「フランス料理」くらい違うイメージですwww ホントにw
残念ながら「RF(無線)エンジニア」ではアンテナのマッチングは取れないと思います。
「アンテナ理論が分かるRF(無線)エンジニア」でないとココは無理なんです。
私は「RF(無線)エンジニア」ですので、アンテナ理論は余り分かりません。勉強中ですw
少し解る位ですw
弊社には「アンテナ理論の分かるRF(無線)エンジニアが2名居ます」
確かに、アンテナ理論の分かるエンジニアは絶滅危惧種と言っても良いですし、レッドリストに載っていると断言できますね。
私のオススメは、
「『アンテナ無しモジュール』を使って無線設計の最適化をしましょう!」
「アンテナのマッチングはBraveridgeに気軽に依頼してください!」
という事になってしまいますねw
ほんとにお気軽にご依頼くださいませ!
アンテナや無線機器の開発には以下の様な計測器やシールドボックスが必要になります。
総額だと新品で総額7,000万円は超えてると思いますw 無線設計会社を作るにはコレくらい必要なんですよ!涙
最後の写真に写っているのは特別なシールドボックスでして、アンテナの特性を簡易検査測定する為の回転台付きの珍しいモノです。
もの凄く高いのですが、ヤフオクオタクの私が\27,000で奇跡的に入手したモノですw
これはホントに運が良かったですw