今では、一般的になったBluetooth LowEnergy(以降、BLEと表記します)規格です。
「BLEとは!」と検索し、各Webサイトを見ますと、BLEの特徴を書いて居られます。
しかし、それらは余り重要な特徴ではないのです。
「Bluetooth Classic(BTC)を、低消費電力にしたのがBLE」というのも技術的には不正確です。
技術的には、BTCもBLEもICの消費電力は余り変わらないです。
厳密に言うと、チップの消費電力は変わらないが、BLE規格で動かすと消費電力が少なくなると言うことです。
他にも的外れな記載が多くて、誤解が広まっているわけです。

BTCでは無く、BLEを使うという判断の最も重要な『BLEの最大の特徴』が知られていません。
技術者視点での解説は無く、極一般的な概要の解説ばかりですので、弊社TechBLOGではガッツリ技術的視点で解説をしたいと思います。

BLEの三大特徴は、
①Interoperabilityの非優先化&Profileの自由化
②無線のトポロジとNetworkのトポロジの合理的結合
③モデムモジュールから、SoCモジュールへ
であるというのが、正しい解説なのですが、こういう話は聞かれた事が無いと思います。
何か発信したいだけの人が掻き集めた情報でBLEを語っているのを見ると、「何だかな~w自分では触ってないんやろね~w」と思います。
先ず、BLEを理解するに当たっては、この3つが大事なのです。

【Interoperabilityの非優先化&Profileの自由化】
これがBLEで最も重要なポイントであります。これこそがBLEの「1丁目1番地」と私はずっと言っています。
まず、元となるBTCの最大の特徴と成功の秘訣こそが『Interoperabilityの確保』でした。
さらに、それを担保するために『Profileの標準化』がセットになります。
当時、BTCを組み込んだ代表的な製品といえば、WindowsPC/携帯電話/音楽再生端末といった所でした。
ココでは、これら端末側を《親機(マスターでもOK)》と呼ぶ事にします。
そして、その周辺機器としてのBTC端末側を《子機(SlaveでもOK)》と呼びます。
例えば、マウス/キーボード/ヘッドセット/etcの類いとイメージしたら良いでしょう。
この親機と子機は別の企業が開発すると、《標準Profile》を皆が厳守しておけば、メーカーが異なる各親機端末と
メーカーが異なる各子機端末メーカーのデバイスの組合せがどの様にクロスしても繋がる。この事こそがBTCの最大のメリットと言えます。

子機側BTC周辺機器を開発したら、どのようなOSの機器にも同じ様に繋がるというものです。
その仲介を《標準プロファイルの遵守》で守っているから可能ですよね。
一方、親機側端末側からしますと《標準プロファイル》をOSに組み込んでおきさえすれば、各メーカーの周辺機器がつながりますので大きなメリットとなりますよね。
これによって、新たなビジネスが生まれ、沢山の新たな周辺機器メーカーが生まれていったのですから、とても美しい仕組みでした。
しかし、この方式の大きなデメリットがあるのです。
世界中の企業が、ライバル企業間であっても、納得の行く《標準Profile》を決めなければ成らないという宿命です。
つまり、《政治案件》なんです。そして、その《標準プロファイル》の開発には、当時(95年頃の話)数億円掛かると言われていました。
これは、その《標準プロファイル》の策定に掛かる費用を回収するだけのビジネスモデルになるかどうか?という宿命を背負っていたとも言えます。
一例ですが、私の旧職のパナではコードレス電話を開発製造販売していましたが、《コードレス電話Profile》なんてのも提起されていましたが、担当の人の話では「(同)Profileを策定するには、費用が掛かりすぎる。また、標準化する事で他社にない特徴を出せなくなる」と言われてました。
実は、これこそがBTCの最悪の宿命だったのです。

ここで一転、BLEでは《Interoperabilityの非優先化&Profileの自由化》という真逆の方向に行った事は皆さん不思議に思われる筈です。
実は、BLEにも《標準プロファイル》は存在します。マウス/キーボード/ヘッドセット/リモコン/etcは《標準プロファイル》で動いてますので、BTCの目的は引き継いでいます。
BLE規格策定の際に、大きな世の中の変化がありました。スマホの普及です。
この時、『スマホアプリとBLEの連携で生まれる新たなビジネス』が想定されたわけです。
私が当時の関係者から聞いた話なんですが、BTCでBluetoothの覇者であったCSR plc社(現在Qualcomm社に買収)は、あくまでも旧来の《標準化ProfileによるInteroperability》を主張していた様です。
その方法では、ビジネスの拡大が期待できないと分かって居たのが、Apple社とNordic社でした。
2社は正しいBLEを誘導すべく、BTsigのボードメンバーとして入り、正しいBLEの規格策定に相当努力したと聞いています。

ではこのBLE規格の背景ですが、スマホが大きな影響を与えたと言いました。
Apple社とNordic社は、スマホの普及で『アプリ開発のビジネス拡大』+『連携するBLE機器のビジネス拡大』を予見していたんだろうと、私は思います。
イメージとしては、Fitbitの様な会社の登場です。健康管理デバイスとスマホアプリの連携です。
これは皆さんご存知と思います。

この様な新たなスマホの周辺デバイスによって、新たなビジネスが生まれたのはご存知の通りです。
Profileを標準化してしまうと、新たな発想や新たな製品が生まれにくいとも書きました。
ではその構成を説明しますと、
「スマホアプリ」と「BLE周辺デバイス」が通信しますよね。
標準Profileなんか強制されていたら、私のような心が汚れた人間の考えでは、「Fitbit社にアプリを開発させておいて、BLE周辺機器だけを作って同社よりも格安で販売しよう」と思いますw アプリ開発やアップデートなんかをFitbit社にやらせて置けば良いわけですw
こんな事をFitbit社が許しますかね? 許す筈はありません。 私がFitbit社であれば、自社のBLE周辺機器しか通信させませんw
当然といえば当然です。

この時点で、Interoperabilityが不要な事が分かりますよね。
ここで改めてInteroperabilityについて再考してみましょう。
「必要ですか?」w
必要ありませんよね。そう言う事ですw

具体的に言えば、「メーカー独自の、『スマホアプリとBLE周辺デバイス間』だけで通信できれば良い」との結論に至るでしょう。
それならば《標準Profile》なんか不要ですよね。
すると、皆《独自Profile》になります。 そして、《独自Profile》ならば、独自にProfileを最大限に工夫して、画期的な新製品を開発することが出来ます。

で、もう一つの大事な結論ですが、「それならば、OSはProfileに関与しない方が、OSにとって有利」です。

そうなんです。BLEの構成では、BLEのProfileにはOSが一切関与しないのです。
《標準Profile》ならばOSに組み込まないといけませんが、《各社独自Profile》ならば「スマホアプリとBLE機器間で巧くやってね」で済みます。
OS側からすると、Profileの更新にも関与せずに済みますから、本当に楽になる筈です。

スマホで使うBLEでは、
・Interoperabilityは不要
・Profileも自由に作って良い
・OSがBLE通信に関与しない(=Profileにも関与しない)
 ※OSはBLEチップとのInterface制御のみ関与するだけです。

これこそが正解であり、BLEが為し得た新たなビジネスモデルの形だと思って下さい。

そして、BLE機器を開発する際には、必ず《独自Profile》を構築するのが、最も重要になります。
巧く行かないという技術相談を沢山受けますが、その殆どがBLEチップメーカーの《汎用Profile》を改造した《改造Profile》で開発されている事が多いです。
チップメーカーの《汎用Profile》は、有る意味《参考Profile》程度に思っていてください。
やりたい事・実現したい事を明確にし、スクラッチから《独自Profile》を作れないと、正しいBLE機器は作れません。

BLEの開発技術力は、この「《独自Profile》の開発能力で決まる」と言い切っても良いと思います。

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