漸くですがDCDCコンバーターの紹介に入ります。
早速、オススメDCDCコンバーターICをと思ったのですが、そもそもDCDCコンバータの解説をしてなかったので、こりゃいかんと思いました。
まず、DCDCコンバーターというのは何か?というのを理解しなければ成りません。
書いていくと、(前編)(後編)に分けないと不味いな~と思いましたので、急ですが2回コースです。

LDOを使う場合は、電源を電圧源として捉えた《安定化電源IC》と言って良いです。
一方、
DCDCを使う場合は、電源を電力源として捉えた《安定化電源IC》と言って良いでしょう。

LDOは入力電圧にIC内部に出力を安定化する為の負荷損失を入れ、コントロールし、出力電圧を安定化させます。
DCDCは、入力電力を高速でON/OFFスイッチングさせ、外付けのL(インダクタ)の特性を利用し、出力電圧を降圧させたり、昇圧します
この時、電力変換というテクニックを使っています。先ずはこの違いを図式化します。

LDOもDCDCもメインの目的は、原則は出力電圧の降圧安定化です。
※ちょっと、昇圧DCDCは抜きにして解説。

ただし、LDOにはちょっと問題がありまして、『負荷電流とVdef=Vin-Voutによって発熱する』と言う宿命があります。
発熱するとは言え、IoTでは燃えるような熱源には成りませんが、その熱源は電池電力を消費しているので、無駄です。

原則的にいうと、DCDC回路の場合は発熱がありません。
Voutは如何なる負荷電流Ioにおいても安定化します。そのVout×Io分を、電池から電力として吸い込む回路です。
電池の出力電力と、DCDCの出力電力が一致します。※理論時では原則効率100%という考えで進めます。

よって、電池の電圧が高く、DCDCの出力が低い程(降圧DCDC)、電池の出力電流が実質少なくなる『電力➡電圧・電流の変換回路』とも言えます。

☆今の解説は『降圧DCDCコンバータ回路』ですから注意して下さい。

これは凄い回路だと思いませんか?
例えば、3.0vのボタン電池電圧でも動く回路が、降圧DCDC回路で1.5vに下げても動作可能とします。
これは、Vin:Vout比=0.5となりますね。
すると、Voutから出力される電流Ioというのは負荷側の回路で決まるので、同じIoを消費します。
電流値は同じと言うことです。
※「どうせ、負荷回路にも内部1.3vLDOとか内蔵してるのでIoは一緒だ!」程度の理解でOK。

しかし電池が消費される電力は、Vin:Vout比=0.5なので、Ibatt:Io比=0.5になります。
と言うことは、Ibatt出力が半分になります。

具体例を言いますと、負荷が10mA消費していれば、電池の消費は5mAと半分に成るという事。
これって、電池寿命が単純に2倍に成るという事です❗

LDOでは降圧する分は熱として消費されてしまいますが、降圧DCDC回路では原則効率100%(損失0%)とすれば
完全に電力➡電圧変換が出来ています。※何度も書きますが、原則ですよ!w
これにより、電源の出力電流は降圧比に応じて減らせるという夢のような回路なのです。

こんな事を知ったら、LDOとか使ってられないですよね❗
私も降圧DCDC回路は大好きです。大好物です。

これが。。。また神様は居るものでして、そうは甘く無いのもこの世の常なんですよね~
再三書いてますが、《降圧DCDCコンバータ-》の解説でぬか喜びしてるんですよ。。。今のところはw

当初の私達が求めるのは、《昇圧DCDCコンバーター》でしたw
DCDCコンバーターとは、『電力➡電圧・電流変換回路』だと表現しましたよね。

降圧DCDC回路:Vin>Vout
昇圧DCDC回路:Vin<Vout

ですよねw 逆ですw

出力で仕様される電力(Vout×Io)は、自ずとVin電源から消費されます。
ちょっと考えてみると、電圧出力が高くなってますので、当然その比に応じて逆に電池電源から引き込む電流が増えそうなのは自明ですねw

なんか「等価交換だ!」とかいうアニメが有ったと思いますが、アレです!アレ❗w
『出力電圧上げたかったら、電池電源から余計に電流(電力)貰うぞ❗」って事なんですw

まぁ、それでも青色LEDを点灯したいので、トレードオフしましょう!
 

昇圧DCDCコンバーターの解説をします。

計算しやすいように条件をこの様にしました。
Vin:3.0v
Vout:6.0v
の昇圧DCDCコンバーターを想定します。

VoutをVinの2倍にしました。Ioは100mAとします。
つまり、6.0v/100mAで動く回路が付いている(安定化電源の負荷に成っている回路)とします。
よって負荷側の必要な電力はP=I・V=0.6wになります。
これを3.0vの電池電源で駆動するんですが、こっちから0.6wを頂かないと行けません。等価交換です。
3.0vの電池電源から0.6wを引き出す(頂く)と3.0v/0.2Aの電池消費となります。
0.1Aしか使わない負荷に対して、2倍の昇圧DCDCコンバーターを使うと、3.0v電源から0.2Aも引き出す必要があります。
※理論上の原則は効率100%で解説します。

昇圧DCDCはホント罪深い電源だわ~と思うんですよねw
しかし、必要な電圧が電源よりも高い場合には、トレードオフとして使用することは多いです。
私の場合は、何度も書いてますが、青色LEDを点灯する際ですね。

まずは、LDOと降圧DCDC回路と昇圧DCDC回路の事は理解して頂けましたでしょうか。

3.0vのリチウムコイン電池1個で回路を動かす場合、負荷回路が更に低い電圧で駆動・稼働できるのであれば、降圧DCDCが有効です。

例えば、Nordic社製nRF52840ですと、1.7v~3.6vまで動作可能です。
するとモジュールのVddを1.8v等にしても動きますので、3.0v➡降圧DCDC:1.8vで駆動すると、電池の消費電流は
1.8/3.0=0.6=60%迄減らせると言うことになるわけです。

1年稼働できるBeaconは、降圧DCDC電源を使うと、1.5年以上は動く事になります。

降圧DCDCは素晴らしいです。

と・こ・ろ・がw
降圧DCDCコンバーターにも弱点(要注意点)があるのです。。。涙。。。

LDOにも降圧DCDCコンバーターにも昇圧DCDCコンバーターにも全て、メリットとデメリットがあります。
これらをトレードオフしながら、設計していかなければ成らないというのが宿命なんです。
だからこそ、全ての電源の実力を知った上で、用途に応じたベストな回路を採用するのが設計なんです。

では、各デメリットを整理します。
・LDOは負荷に電流を流した分、Vdefを掛け合わせた電力損失があり、発熱します。無駄です。
・昇圧も降圧もどちらも、実際には『損失がゼロでは無い』と言うことです。その位は覚悟してますよね~w ※想定内だが。。。w
・昇圧は電圧を上げる分、電池の消費電流は増えてしまい、電池寿命は短くなります。

降圧は電圧を下げることで、電池の消費電流は減ると書きました。
少々のデメリットくらいは当然覚悟してますが、どの位のデメリットか?ってことなんですよね。そのはず。

これが今回、急遽、割り込んで説明しないといけないところでして、大事な解説なんです。

まず、その解ですが『負荷電流によって変換効率が異なる』という問題です。これはワリと多くの設計者が気付いてないんです。
設計ミスにもなりかねない大事な要点をこれから解説します。
※勿論、昇圧DCDCにもこの様な特性が付随しますが、それは(後編)で考えましょう。

日清紡マイクロエレクトロニクス製(旧RICOH製)の2つの降圧DCDC電源を比較してみます。

R1245x ➡この旧バージョンのR1242はもの凄い量を使いました。今はR1245xが推奨品です。高性能です。
https://www.nisshinbo-microdevices.co.jp/ja/pdf/datasheet/r1245-ja.pdf
RP515x
https://www.nisshinbo-microdevices.co.jp/ja/pdf/datasheet/rp515-ja.pdf

ちょっと目的とする用途が異なる2つの降圧DCDCコンバーター電源ICですが、学習の為に抜粋します。
これを見て下さい。

ちょっとトレース波形の異なるだけの印象しかない2つのICのカーブを比較します。
良~く見て下さい。横軸のレンジです。
R1245x:最小単位の横軸の0点交差軸は、0.01mA=10uA
R515x:最小単位の横軸の0点交差軸は、0.001mA=1uAです。

そしてVinの条件によってカーブが違うみたいなので、Vin:4.5vと条件を合わせて比較します。
R1245x(赤線)
RP515x(黄線)

負荷への出力電流が〔10uA〕〔1mA〕〔10mA〕〔100mA〕の各条件での効率を読み取ります。
R1245: 〔2%〕 〔7%〕 〔33%〕〔73%〕〔92%〕
R515 :〔90%〕〔93%〕〔93%〕〔95%〕〔97%〕
上記解説のなかで、私はDCDC変換効率は原則100%としてきましたが、現実には100%では有りません。
それどころか、損失とは言えないほどの損失じゃないですか!
想定していた損失ってのは、せいぜい10~20%くらいのもんです。90%以上の損失条件があるとは全く想定外です。
話が違いますよね❗
最大効率点では、カタログやリーフレットや仕様書の1ページ目に、「95%❗」とか書いてるので、「5%の損失位は覚悟の上だ!」と思って安心してしまします。。。が❗

負荷電流によってこんなにも違うと言うことを見落としているエンジニアがとても多いです。
正直、効率50%を切ってたら、DCDC回路使う価値ありますかね?って事になります。

こりゃ~大変です。
おまけにR1245の〔1uA〕なんて、グラフにすら表記されていません。10uAで〔2%〕ですから1uAでは0%でしょ❗w

DCDCコンバータICの仕様書には、この効率Efficiencyグラフに、そもそも1uA時の効率を書いてないIC仕様書が殆どです。
せいぜい100uA(min)までの表記が殆どでしょうね。
私は知り合いのICメーカーのエンジニアや営業には、「必ず1uAレンジまで仕様書に書いてくれ❗」と要望しています。

ここで大事な事を言いますと、
「DCDCコンバーターICは使用される用途に応じて設計されているので、万能な1つだけのICは無く、適材適所で選ぶ。」
という事なんです。

紹介したICの名誉の為にも追記しますと、

R1245x:車のバッテリーから5v電源等を確保する際に向いたIC。携帯充電や、レーダー探知機や、ドライブレコーダーなどワリと消費電流が1000mA以上を想定した用途に合致するような設計です。

RP515x:IoT機器でリチウムコイン電池1個・乾電池2個~3個使用を想定し、電池寿命を最大化する様に企画開発されたICです。BluetoothLE/WiFi/LPWA用のDCDC電源として企画開発されているモノです。

DCDCコンバータICの選択は、ホントに要注意ですのでじっくりと分析の上で選択する必要があります。
特に、この低消費電流時の変換効率(%)について気にしているエンジニアがもの凄く少ないので、必ず注意して下さい。
頭の中の効率100%の妄想が、実際には全く計算に合わないどころか、LDOよりも過剰に消費してしまうなんて事にも成りかねませんよ。

何を隠そう、10年以上前のCTO時代の私ですwww

ちょっと長くなりましたので(前編)(後編)に分けたいと思います。
実は、《設計の注意点》は、全然終わってないんです。。。ま~だ、検討しないといけない事があるんです。

設計理論というのはほんっと大変です。
まだまだ、チェックポイントは続きます。。。

技術屋オヤジのよもやまばなし(四方山話)

もう毎回この『四方山話』を書いてますが、ネタは山ほどありますw
気に入らない人は、見なくて・読まなくて結構ですw その権利がありますからw 民主主義なのでw

正直に言いますと、私がDCDC電源ICを使ったのは独立した後からです。
旧職時代はLDOのみでした。

独立後に、DCDC電源ICに興味を持って、試作してみたんですが、マトモに動くまでに何度・何回試作したことか。。。
その位分からない回路でした。
理論も理屈も全く分からず、早合点して何度も失敗しました。
流石にコレじゃ~ダメだ!と思い、必死になって、各ICメーカーの仕様書やアプリケーションノートを読み漁りました。

それでも、今紹介しているようなノウハウに至るまでには、更に何度も失敗と絶望を繰り返してきました。
今では、かなり安心して気軽に作っても大丈夫な感じです。
新型ICの仕様書を見れば、直ぐに『使用目的』を読み解ける位には成長しています。

実は、LDOの回路なんて大した事ありませんが、DCDC回路となると、リファレンス回路として保存したものを改良して使った方が安心です。
弊社でも、社内用途でリファレンス回路のブロック化を進めています。
これのコピペで開発しますので、もの凄く早く開発が出来ます。

Quadceptプロジェクト形式で公開しているものは、ほぼ弊社が使って居る回路そのままです。
価格等の属性は削除しての公開というだけです。コレばかりは公開するわけには行きませんので。
代理店やICメーカーに迷惑が掛かりますので、ご勘弁ください。

次回の(後編)が終われば、DCDC回路はパターンレイアウト図も追加し、参考レイアウトとして公開します。
また、レイアウトのコツも解説して行きます。

ではでは。

 

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