では、本格的に回路設計を理解して行きましょう。

「まず最初に何から始めるのか?」

これは新しく始めようとしている趣味の時も同様なのですが、最初の一歩が分からないもんです。
切っ掛けが必要です。

先ず手始めに、【目的・目標】を決めねば成りません。

このシリーズでは
【Bluetooth Low Energyの本格的Beaconを作る】を目標とします。
簡単なBeaconでなく、本格的なのを目標としましょう。

では進めます。

まず、Bluetooth Low Energyのモジュールを選びます。
これは、弊社のNordic Semiconductor社のnRF52840を使用した、BVMCN52840CFSLRを使います。
本当は、端面スルーホール仕様で手ハンダが可能なモジュールも弊社に存在するのですが、なぜか弊社の営業が外販していない様です。
コレも謎w なんで???

仕様書は以下からDLします。
https://www.braveridge.com/product/archives/5
ファイルへの直リンクは以下です。
https://www.braveridge.com/files/uploads/BVMCN52840CFSLR_spec_Ver1.1.pdf

信じられないかも知れませんが、「仕様書の読み方(読み取り方)が分からない」という電気エンジニアも結構多いのですw
これも、適宜『仕様書の読み方』を解説して行きます。

先ず最初に、見るべきは
Step1:【使用電圧範囲】です。
Page5に、使用範囲:1.7v~3.6vと記載されています。ここが先ず初めの一歩です。
モジュールを選択している場合には、消費電流やスタンバイ電流やスリープ電流なんかも見ます。
nRF52840を使う以上は、世界中どこのRFモジュールでもここら辺の仕様は、Nordicのチップ(SoC)の仕様書のままです。
つまり、どのモジュールでもICが一緒なら、モジュールの仕様も一緒です。

Step2:【電源の仕様を決める】です。ここら辺からが大事になります。
「電源は何にするのか?」を『決め』ないと行けません。

①乾電池(1.5v)
②リチウムボタン電池(3.0v)
③リチウムイオン電池(3.7v)
④USB電源(5.0v±0.25v) ※PCのUSBポート/USB出力のACDCアダプタ/etc

まずここら辺から検討してみましょう。
BVMCN52840CFSLRモジュールの【仕様電圧範囲】は1.7v~3.6vです。
①-1:乾電池(1.5v)を1本では動かない事が分かります。と言うことは乾電池を使うならば、最低2本以上は必要です。これで3.0vなので動く筈。
②問題無し
③リチウムイオン電池は、基本出力電圧が3.7vですが、これは使用電圧範囲を0.1v超えてますのでモジュールが壊れます。
 また充電時には4.2vや4.25vや4.3vにも成ります。完全にアウトです。
 ※リチウムイオン電池は最大電圧を少しでも上げて、より多くの電力を貯めようと4.3v充電仕様版とか有ります。要注意です。
④最大電圧の3.6vを越えてますので、このままではダメです。

ちゃんと動く電源を確保しようとすると、以下の様な選択になります。
①-1:乾電池2本直列接続:3.0v
③リチウムコイン電池:3.0v
③安定化電源回路(LDO/DCDCコンバーター)を追加して、3.0vに降圧し安定化すれば問題無いです。
 但し、充電回路や保護回路の必要なので、一筋縄では行きませんね。
④安定化電源回路(LDO/DCDCコンバーター)を追加して、3.0vに降圧し安定化すれば問題無いです。

【Bluetooth Low EnergyのBeaconを作る】んですから、持ち運びする場合には電池一択です。
となると、取り敢えず①②どちらかになります。 ※③④の場合も時期をみて設計してみます。今回は電池です。

これで、使用するモジュールと、それが安全に動く電源(電池)を決めました。

ハイここで、折角なので【目標企画】を更にグレードアップしましょう。

「LEDとか光らせなくても良いの?」 ➡如何でしょうか?必要ですよね。欲しいですね。

「何色にします?」

やはり、『青色』か、『緑色』か、『白色』? 最近は『紫色』とかのLEDも有ります。『ピンク(桜)色』もあった筈です。
どれがお好みでしょうか?【目的の仕様】を決めるのは各個人さんですので自由です。
そう言えば、『赤色』とか『(緑っぽい)黄緑色』とか『黄色』とかもあります。ただ、これらはなんか暗いんですよね。
昔~しから有る色です。太陽光が入ると、殆ど光って見えないアレ色です。赤は未だ良いんですが。。。
赤色はなんか、パッとしませんよねw

では『青色❗』を選択します。
完璧です❗。。。。。。。❓

実は、明るくて綺麗な『青色』『緑色』『白色』『紫色』『ピンク(桜)色』って、ちょっと注意が必要なんです。
『最新のLED』なんですが、これらは全て『青色LED』です。
あの、例の特許訴訟をずっとやっていた、中村教授と日亜化学が世界で初めて開発したアノ『青色LED』です。
白色LEDなどは、カバーのプラスティックで青色成分をフィルターして白色にしています。緑・紫・ピンクもそう言うやり方で実現してます。
これらは高輝度LEDといって、窒化ガリウム半導体なんです。
普通の半導体は概ね、シリコン半導体です。
この『青色LED』の仕様書をみますと、必ず

《Vf=3.1~3.2v》 ※「ブイエフ」

という、大事な大事な仕様が記載されています。
これは、LEDが発光するときに必要な最低電圧とも言えまして、光るとこれらのLEDの両端(カソード~アノード間)電圧はVf電圧にると言うことです。
ここら辺の説明は、電子回路設計(初級編)②で詳しく書いてますので参照して下さい。
https://blog.braveridge.com/blog/archives/210

「で?」と思った人も居ると思いますが、良く良く振り返って下さい。

電源電圧の確保は今のところ①-1としてましたが、電圧は共に3.0vです。
『青色LED』を点灯させるのが目的だったのですが、「点灯するとLEDの両端電圧はVf=3.1~3.2vになる」という事です。

電源電圧は3.0vしかなく、LEDが点灯したら3.1~3.2vに成るのか? 成らないです。
基本、電子回路では、決めた電圧以上には成りません。

第3回【設計時に、電圧は固定で一定】❗と説明してますよね。
青色LEDを点灯するときだけ、都合良く、電池電源が3.1~3.2vには成らないです。一定では無いって事になりますし。

どうしましょうか?

答えは、『3.0v電源を使うと、Vf=3.1~3.2vの青色LEDは点灯させられない』って事です。どうしようもありません。

これは大変困りました。。。やはり青色LEDが良いですよね~w

すると再び、この初期の選択に戻る事になります。
①-1:乾電池2本直列接続:3.0v ➡①-2:乾電池3本直列接続:4.5v ※これなら大丈夫ですが、3.6v以下に降圧しないと行けません。
リチウムコイン電池:3.0v ➡②-1:コイン電池2個直列接続:6.0v ※これも大丈夫ですが、3.6v以下に降圧しないと行けません。
③安定化電源回路(LDO/DCDCコンバーター)を追加して、3.5v位に降圧し安定化すれば問題無いです。
 但し、充電回路や保護回路の必要なので、一筋縄では行きませんね。
④安定化電源回路(LDO/DCDCコンバーター)を追加して、3.5v位に降圧し安定化すれば問題無いです。
 ※なんで③④で3.0vでなく、新に3.5vなのかは次回に解説します。電子回路設計(初級編)②にも解説が有ります。

『青色LED』に拘ってしまうと、①-1では使えないことになります。
解決策は、➡で追記してますが、ややこしい設計になってきました。

それか、窒化ガリウム半導体を諦めて、旧来からあるシリコン半導体で作られた、アノ暗いLEDにしますかね?
赤色はやはりダサいですw
黄緑や黄色はVf=2.1~2.2vなので使えるんですが、兎に角見え辛い程の暗さです。。。嫌ですよね~w

しかも、③④の電源では、持ち運びが不可能です。

私なんかは、どうしても『青色LED』を使って、格好良い製品にしたいもんです。

完全に詰んでしまいました。。。

如何です?たかが電源を決めるという初期の段階でも、初めて設計する場合には色々と課題が出ます。
そして、もし問題に気付かず基板を試作してしまうと、もの凄い時間と費用の損失が出てしまいます。
『決定した意志』を脳内で検証していくのが設計者の能力とも言えます。

この様に、回路設計とはこう言う場面に何度も直面します。
ここからが、Braveridge回路設計道場の始まりです❗

次回は、どの様に解決していくのか?を進めます。
まだ、最初の最初なんですがね。。。こういう事態の連続ですw

私が経験した話。。。
(Case_1)
ちょうど、10年くらい前の話なんですが、ある方の依頼で知らない人は居ない程の大手電気メーカーに引っ張られて行きました。
何の話かも分からず、指定の駅で待ち合わせです。
この方は私が懇意にしているSaaSの大企業A社を辞められて、そのライバル企業B社に転職されていました。
駅のカウンターで説明されたのは「この企業から、Beaconの設計を依頼されたのでBraveridgeにお願いしたい」と。

私はA社とは深い取引をしていますし、Beaconの開発と製造もやっていましたので、「こりゃ~参ったな~」と言う事態に。
まぁ、商売ですので武器商人だと思えば、A社とB社にBeaconを開発し製造するのは問題ないのですが、他にも色々と面倒な事情があったので、困ったな~という状況です。

で、この大手電気メーカーに入ると、技術担当者から技術課長や技術部長まで総勢8人位が会議に参加されてました。
私はどこ迄この会議に入り込めば良いかのさじ加減を図りきれず、黙って要望だけを聞いておこうと決断。

会議は、かなり盛り上がってきまして、電池は薄型がご要望で、CR2032リチウムコイン電池で直ぐに決定。
そして、次にLEDは3色あって、『青色LED』『白色LED』『赤色LED』の3つを載せたいと。
ここで、「んんんんんんん?」と思ったものの、それでも沈黙を貫こうとCTO(Chief Talking Officer)な私は黙って聞いてました。

技術者が沢山参加しているので、「(流石にだれか気付くだろう~!)」と黙って、LEDの場所やらなんやらの話題で盛り上がっていました。
それでも、誰も気付かず。。。それでも沈黙を保ってました。

それで、「これで大体の仕様は決定だな!これで顧客に提案する」と最大限に盛り上がって終わろうとしていたので、我慢しきれず、

「あの~~~大変申し訳ありませんが、一言だけ助言して宜しいでしょうか。窒化ガリウムLEDはCR2032では点灯しませんが。。。」と言うと、

しばし、沈黙www

で、完全に振り出しに戻りましたw

(Case_2)
腕時計型のBluetooth Low Energyデバイスを開発する相談が舞い込み、来社されました。
私は存じ上げなかったのですが、わりと東京の設計会社では有名だとは、代理店やその他の会社の情報で認識してました。
しかも、来社されたのは私よりも年配の技術部長さんです。

「時計のレイアウトに合わせて、12個のLEDを円形に配置して、時計としても使える様にしたい」との事。
おまけに
「薄型・小型が必須で時計型なので、CR2032を使う」
そして、
「LEDは白色LEDとする」

と要望されたので、すかさず
「あの~白色LEDはCR2032(3.0v)では点灯しませんよ。どうするんですか?」

技術部長さん「いや!実験ではちゃんと点灯した!」

私「いやいや。それ、新品のCR2032でしょ? CR2032の容量仕様は2.5vまで電圧低下するまでの容量です。 白色LEDが点灯したというのは、Vf:2.8~2.9vくらいで辛うじて点灯しているんじゃ無いですか? CR2032をギリギリ2.5vまで使い切らないと、電池寿命は相当短くなりますよ。また、辛うじて点いてる状態を製品にしたらLEDのバラツキでCR2032が2.9v位まで下がっただけで、点く・点かないLEDも発生して、大問題になりますよ。」

技術部長さん「そう言う視点で言えば、確かに白色LEDが点かなくなる場合もある。が、点灯するにはする(した)」

結局、お断りしました。その後、これが製品として発表されたのを見ていません。。。

恰も、私の作り話の様ですが、実際に有った話です。
営業や企画の方の要望ならばまだしも、技術者でもこんな感じの会話は珍しくは無いんです。しかも、大企業ですからね。後者は有名な設計会社。

日本の技術者はこんな感じではダメだと思うんですよね。
少なくとも、若い人達には是非、回路設計の理論くらいは伝えたいと思ってきたんです。
それが、本シリーズを始めた切っ掛けです。

ここら辺の愚痴は山ほどあるんですよw
まぁ、特定されない範囲で、そう言う話を四方山話で書いていきます。
私の話は全て『100%オーガニック』です❗w
私の話は、無添加・無着色なのが哲学です❗www
 

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